死刑確定から33年、再審開始、死刑と拘置の執行停止を決定

静岡地裁(村山浩昭裁判長)は27日、「重要な証拠が捜査機関に捏造(ねつぞう)された疑いがある」として、再審開始を認める決定をしました。刑と拘置の執行停止も決定。袴田さんは即日東京拘置所から釈放されました。事件発生から48年。死刑確定からは33年が過ぎ、ようやく再審の重い扉が開いたのです。
死刑事件の再審開始決定は、無罪が確定した免田、財田川、松山、島田の4事件と、後に覆された2005年の名張毒ブドウ酒事件の名古屋高裁決定に次いで6件目となります。

拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する

決定の内容は縮めるとこうです。
第1に、再審を開始する。弁護人から新たに出された五点の衣類に関するDNA鑑定と色に関する証拠は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当する。確定判決の最も有力な証拠としての五点の衣類は、後日ねつ造されたとの疑いを生じさせる。それ以外の証拠も自白調書も証明力が弱く、袴田を犯人であると認定できるものではない。
第2に、死刑の執行を停止。袴田は、捜査機関によってねつ造された疑いのある重要な証拠によって有罪とされ、極めて長期間死刑の恐怖の下で身柄を拘束されてきた。無罪の蓋然性が相当程度あろことが明らかになった現在、これ以上、袴田に対する拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する状況にある。よって、裁量により、拘置の執行も停止する。

検察は即時抗告

「重要な証拠が捜査機関に捏造された疑いがある」と指摘された静岡地検は3月31日、決定の取り消しを求めて東京高裁に即時抗告。東京高裁(大島隆明裁判長)は、再審開始の決定については審理を開始しましたが、拘置の執行停止(釈放)については地裁決定を支持、静岡地検の抗告を棄却したのです。「拘置は死刑執行のための身柄拘束で、死刑執行の一環。再審開始決定をした時は拘置も執行停止できる」とし「年齢や精神状態に鑑みれば、身柄確保の必要性が高いといえない」と述べています。

画期的決定~裁判官は無罪を確信、捜査は違法と認定

静岡地裁のこの決定は、事件の冤罪性と捜査の違法性を明確に指摘、歴史に残る画期的な意義を持っています。裁判官が無罪を確信しているばかりか、警察、検察の捜査を違法と認定、さらに、長期にわたる拘禁を耐え難いほど正義に反すると断じて死刑囚を釈放してしまったのです。ここまで明りょうに、かつ踏み込んだ決定(判決)が出るとは誰も予測できなかったでしょう。死刑囚の拘禁期間が世界一長いことでギネスブックに載った事件も過酷な事件ですが、静岡地裁のこの決定もかつてはありえなかった事例です。
はっきり言えば、違法捜査という国家権力が犯した犯罪を満天下にさらしたのですから。正義を守るはずの警察、検察、そして裁判所までが、罪のない一市民に濡れ衣を着せて逮捕。客観的証拠がなく罪を証明できないから、袴田さんが「殺される」と思ったほどの暴力的な「取り調べ」で自白を強要。そして、「五点の衣類」などの証拠のねつ造。これが法律の番人のやることか、と批判が集中したのです。

目覚めた正義

警察、検察は面目まるつぶれ、味方であったはずの裁判官の判断にかなりのショックを受けたことでしょう。しかし、この決定、冷静に検討すれば当然至極、誰が見ても当たり前の結論です。これまでに地裁高裁最高裁で繰り返されてきた有罪判決の方が異常、有罪という結論が初めから決定事項という前提でそれを無理やり追認してきただけだったのです。

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