1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で、死刑が確定した袴田巌さん(81)に対し静岡地裁が再審開始を決めてから3年半。検察側が不服を申し立て、東京高裁では再審を開始すべきか審理が続く。26、27日には再審開始決定の根拠のひとつとなった弁護側提出のDNA型鑑定の手法について、鑑定人尋問があり、審理は最終局面に入る。年度内にも結論がでる公算が大きい。
検証されたのは「犯行時の着衣」とされたシャツの血痕からDNA型を抽出した本田克也・筑波大教授の鑑定手法だ。本田教授は血痕を溶かした液に試薬を加え、凝集した血液細胞からの抽出を試みた。これが袴田さんのDNA型と一致しなかった。だが、再審決定を不服として即時抗告した検察側は「独自の手法で信用できない」と検証実験をするよう主張。東京高裁は鈴木広一・大阪医大教授に実験を嘱託し、今年6月に実験結果が報告された。
この中で鈴木教授は本田教授の手法について「試薬にDNA分解酵素が存在する以上、誤った適用」「確立された方法を用いて鑑定するのが常識」などと批判。ただ試薬を使った実験でDNA型が検出できたこと自体は否定しなかった。
弁護側は「本田教授の手法を批判しながらも結果は否定できなかった。批判の根拠もよくわからないままで、尋問で鈴木教授にただしたい」と話す。一方、検察側は鈴木氏の報告は「本田鑑定を否定する根拠の一つ」と評価。本田鑑定に信用性はないと主張するとみられる。
一方で、検察側は今月、「本田鑑定の信用性」を検証するための新たな実験を別の研究機関に依頼したことを明らかにしたという。弁護側は「鈴木鑑定に1年半もかけながら、今更新たな証拠を出そうとするのにはあきれる」と反発する。
袴田さんは現在、姉の秀子さん(84)と浜松市に暮らすが、長年の拘禁による精神障害を抱える。ただ、体調は良好で、最近は早足の散歩を日課としているという。(高橋淳、華野優気)