「袴田巖さんの壁」

プラハにある「ジョン・レノンの壁」にヒントを得て、小川秀世法律事務所静岡市葵区本通六丁目 カメリアビル)
に設置されました。5月18日には、袴田巖さん、ひで子さんも出席して開幕式。





朝日新聞5/19朝刊

趣旨アピール

袴田事件は,平成26年3月27日,静岡地裁が再審開始を決定し,合わせて死刑及び拘置の執行を停止したことで,袴田巌さんは釈放されました。静岡地裁が,前例がないにもかかわらず袴田さんを釈放した理由は,DNA鑑定等により袴田さんの死刑判決に疑問があることが明白になったこと,さらに,本件では警察による証拠ねつ造が行われた可能性が高いと考え,これ以上拘置を続けることは「耐えがたいほど正義に反する」と判断したからでした。

ところが,検察官が即時抗告をしたことにより,その後4年2ヶ月も経過した今,ようやく東京高裁の決定が出されることになりました。しかし,袴田さんは,すでに82歳の高齢になり,健康状態も万全ではありません。とくに,袴田さんは,いまでも死刑執行の恐怖にとらわれており,妄想の世界から抜け出せません。袴田さんに,元気な状態で普通の生活を取り戻してもらうためには,一刻も早い無罪判決が必要なのです。

即時抗告審での審理状況からすると,検察官の即時抗告は棄却され,静岡地裁の判断が維持されることは確実です。しかし,それに対して,もし検察官が特別抗告をすれば,再審が実際に開始されるまで,さらに2年,3年あるいはそれ以上の期間を要することになってしまいます。

静岡地裁の判断によれば,本件は,国家が重大な過ちを犯し,袴田さんの人生を奪ってしまったということであり,決して償うことはできません。そうであれば,これ以上審理を長期化させることは,正義の観点からは決して許されないはずです。もし,検察官が,東京高裁の判断に不服があったとしても,再審公判の場で主張,立証する機会があるのですから,その意味でも,本件で特別抗告まですることは,不当と言うべきです。

ところが,最近の再審事件である松橋事件,大崎事件などで検察官が特別抗告したことからすると,検察官は,本件でも同様の対応をすることが懸念されます。しかし,本件の重大性,特殊性に鑑みれば,これは検察官の判断だけにゆだねるべき問題ではなく,検察庁法14条により検事総長を指揮する権限が与えられている法務大臣が,大局的観点から,正義にかなった対応をとるべきことが期待されている事案と考えられます。

そして,以上の趣旨を明らかにし,上川法務大臣に訴えるために,この「袴田巌さんの壁」を設置し,多くの皆さんにもこの壁に一言書き添えていただき,協力をお願いするものです。