鈴木鑑定人の検証実験に関する意見書記者会見静岡地裁の再審決定についての即時抗告審で、6月29日東京高裁、検察、弁護団による三者協議が開かれました。再審開始の要因となった弁護側の本田DNA鑑定を検証した鈴木鑑定人の最終報告書(6月6日提出)について、弁護団は「地裁の再審決定の内容は揺るがない」との報告書を高裁に提出しました。三者協議の後の弁護団記者会見で発表しました。
その「鈴木鑑定人の検証実験に関する意見書」の全文を公開します。

鈴木鑑定人の検証実験に関する意見書

2017(平成29)年6月28日

東京高等裁判所第8刑事部御中
主任弁護人西嶋勝彦

鈴木鑑定人の検証実験についての弁護人の意見をあらためて述べる。

本件検証実験は、静岡地裁決定が「ただし、この方法は、血液細胞の比重の重さと凝集反応を利用するものであるから、試料が古くて血球細胞に損壊または状態変化が起きている場合に同様の効果が期待できるか必ずしも明らかではない。」と説示したことを捉え、「同様の効果が期待できるか」確かめるために行われた。

鈴木中間報告の要点は、市販のレクチンにDNA分解酵素が入っているらしい、しかもこれはDNAを消失されてしまうものらしい、というものであった。この主張が正しいのであれば、アイディンティファイラーでDNAが検出されることはない。

ならば本田鑑定の結果はなぜ出たのか?ハリエニシダのDNAか?アイディンティファイラーでは、ヒトのDNAしか検出されないから間違いなくヒトのDNAである。そして、そのDNAは袴田さんと異なるヒトの染色体DNAだった。これはどういうことか?

鈴木最終報告がそれを明らかにした。すなわち「レクチンを使用しても陳旧血痕からDNA型が検出される」ということである。(因みに、青木実験でもDNAは検出されている)。結局、半袖シャツに付いていた血液は「袴田さんのものではない別人」の血液だったという静岡地裁の認定は揺るがない。
したがって、弁護団は、不必要な尋問等を経ることなく、直ちに審理を終結させて検察官の即時抗告を棄却するよう本書面をもってあらためて求める。以下、その理由を敷衍する。

①本田鑑定においては(細胞)選択的抽出法は血液細胞を凝集する目的で用いられた。血痕から浮遊させた血液細胞とレクチンと混ぜるというものであり、レクチンは細胞膜に作用するだけでDNAに直接作用しない。本田鑑定の方法では、レクチンとDNAを、細胞膜、細胞質、核膜、核蛋白などによって相互に物理的に隔絶している状態で作用させているから、両者が混合されることはない。これはレクチン使用の目的があくまでも細胞凝集であって、DNAそのものへの作用を期待したものではないことからも自明である。

②鈴木実験が本田鑑定の検証であるとすれば、本田鑑定の手法を忠実に行うことが最低限必要であり、それ以外のことを行う意味がないし、無関係な議論を行うことになり有害である。しかし、鈴木実験は、本田鑑定の手法を再現しようとしておらず、独自の研究を実施している。ゆえに検証実験とはいえない。

③鈴木実験は、鑑定嘱託事項を無視した実験を行い、かつ中間報告と最終報告の内容は相反している。
中間報告では、レクチンを混ぜるとDNAが「消失」する→ゆえにレクチンがDNAを壊している、という理論を述べながら、最終報告では、レクチンがDNAを壊している→ゆえにピークが下がっている、と結論付けており、原因と結果を入れ替えた議論をしている。さらに、中間報告によれば「消失」するはずのDNAが最終報告では減少したとされており、結論まで変えている。
結局、「レクチンを使う必要はない。使うべきではない。」という信念の下、それを証明するために実験を行っているようであるが、そのような実験は裁判所に求められたものではないし、その解釈に科学的根拠(実証)もない。
もっとも、鈴木実験は、図らずも本田鑑定を裏付けることとなった。

④何度も繰り返している通り、本田鑑定人が(細胞)選択的抽出法を用いたのは、原審裁判所が「仮にDNAがでたとしても、血液に由来するものか誰かが触ったものに由来するものかがわからないと鑑定の意義が著しく低下する」と述べて、検出されたDNAが血液に由来するものかを識別することが技術的に可能かどうかに関心をもっており(平成23年5月13日打ち合わせメモ(第8回)の高橋裁判官の発言)、鑑定においても「上記各DNAが上記各血液に由来する可能性」が鑑定事項となっていたからである(平成23年8月29日鑑定人尋問調書別紙鑑定事項3)。
本田鑑定人の意見を受けた弁護人らは、当初から、血痕からDNAを採る以上、DNAは血痕のDNAであるという強い意見を述べていた。(平成23年6月22日付弁護人意見書)のであるが、上記のような経緯で本田鑑定人は、裁判所の鑑定事項に忠実に鑑定すべく、血液細胞を凝縮させるためにレクチンを利用したのである。これこそが、血液細胞だけを選別する意義であり、「(細胞)選択的抽出法」という名称の由来である。

⑤以上の経緯を経て捨象して、鈴木鑑定の結果によるとしても、それが示すことは、陳旧血痕を含めて(細胞)選択的抽出法を用いてもDNA型が検出されたという、動かし難い事実である(型が検出されていない(RFU50に達しない)のは1ケースのみであるが、これは単に失敗した実験である可能性が高い)。鈴木鑑定人はDNA量が減少したと言っているが、レクチンにより細胞選択をかけているのであるから、この方法でDNA量が減るのはむしろこの方法の選択性が有効であることの証明である。

⑥付言すれば、本田鑑定人は、本鑑定においてアリール・コールを検査機器(3130XL)で使用されていたソフトウェアの初期設定どおりRFU50としている。バックグラウンドの高さの上限を考慮して閾値をRFU50にすることは国際的にも標準として用いられている(平成24年6月22日付求釈明事項に対する回答書)。それを考慮すると鈴木鑑定人は本田鑑定人と同じ条件で検出すべきであるし、そうしなければ検証にはならないはずである。これをその根拠を明確にすることなく、勝手に150RFUに設定することは、検出されているピークにアリール・コールさせないようにして、型検出をあえて難しくしていることを意味する。
本田鑑定人と同じ基準の型検出を確認するために、鈴木鑑定人には、全ての実験における陽性コントロールと陰性コントロールの結果、並びにアリール・コールの閾値を50に設定して再解析したチャートの提出を求める。

以上