袴田事件第2次再審請求審は、昨年12月に最高裁が高裁決定を取り消し、東京高裁に差し戻したのを受けて、東京高裁での審理が始まりました。3月22日が第1回目の裁判です。裁判といっても再審(裁判のやり直し)を認めるかどうかを争う手続きで、この段階を越えて初めて再審公判(やり直し裁判)となるのです。どうやら、またしても非公開で行われる審理。裁判官、検察官、弁護人の三者だけの協議で進められる裁判です。

日本の再審制度では、第1関門の再審請求審で再審開始決定が確定すれば、次の段階の再審公判(公開裁判)ではほとんど争わずに再審無罪判決で決着します。第1段階で実質審理は終了するようなシステムになっています。この大事な方の裁判が非公開で、公開裁判の再審公判が儀式的な付けたしになっているのは変なのですが。日本の裁判制度の問題のひとつです。ともあれ、再審開始決定を勝ちとらなければなりません。

 

さて、最高裁の出した差し戻し決定が、高裁での審理の出発点となります。どういう決定で、何を高裁に求めているかを再確認しておきます。

  1. 東京高裁の再審開始を認めなかった決定を破棄する。この点では全員が一致しました。
  2. その後の処理として、高裁への差し戻しを3人の裁判官が主張し、後の2人は即刻再審を開始すべきという意見でした。多数決によって高裁への差し戻しという結論になったのです。
  3. どういう点をやり直せという指示だったか、最高裁は具体的に指摘しました。「メイラード反応その他のみそ漬けされた血液の色調の変化に影響を及ぼす要因についての専門的知見等」「現時点における専門的知見等」を調査するため差し戻す。決定から引用すると、こうです。
  4. これは、こういうことです。犯行着衣とされ、かつ袴田さんのものとされている「5点の衣類」が有罪証拠の中心とされています。検察官は事件直後に袴田さんが味噌タンクに隠したもので、事件の1年2か月後に発見されたと主張しています。そして有罪死刑判決(確定判決)でも、検察の主張を根拠としています。対して弁護団は、ズボンが穿けなかったこと、上着と下着に付着している血痕の位置がチグハグであること、DNA型が不一致だったことなどを指摘して「5点の衣類」は捜査当局による不当なねつ造(でっち上げ)証拠。発見されることを想定して直前にタンクに入れたと反論。中でも、血痕の色に赤味が強かったことを問題視し、【みそ漬け実験】で血痕は黒く変色することを明らかにしたのです。従って、1年2か月も味噌タンクに漬けられた衣類に残されていた血痕が赤味を維持していれば有罪証拠になるが、赤味が消えて黒っぽい色に変色すればねつ造証拠と言う外ないということ。さらに参考までに専門家の意見を聞いて論理的にも説明がつくような調査を最高裁は要求しているわけです。
  5. ですから、まずは検察官が1年2か月もの期間、味噌タンクに入れられた衣類の血痕が赤味を維持する、そのことが自然であることを合理的に証明しなければならないのです。が、検察も味噌漬け実験をやりました。その結果では、血痕は黒く変色していました。この事実は裁判所も確認していることなので、ごまかしようのないことです。

ここから始まる差し戻し審。最初から検察のピンチですが、何でもアリの裁判。国民の監視が必須です。