大島隆明裁判長

経 歴

1954年(S29)7月28日、東京生まれ。
東京大学卒業後、司法修習生を経て弁護士として登録。主に民事事件に関わる。
1年半後に裁判官に転じる。
S56.10.1 ~ S59.3.31 岡山地裁判事補
S59.4.1 ~ S61.3.31 東京地裁判事補
S61.4.1 ~ S63.3.31 最高裁民事局付
S63.4.1 ~ H2.4.7 福岡地家裁判事補
H3.4.1 ~ H6.3.31 東京地裁判事
H6.4.1 ~ H10.4.2 司研刑裁教官
H10.4.3 ~ H11.3.31 大阪地裁判事
H11.4.1 ~ H13.3.31 大阪地裁13刑部総括 (刑部総括とは裁判長を務める地位)
H13.4.1 ~ H15.8.14 東京高裁9刑判事
H15.8.15 ~ H18.12.19 東京地裁12刑部総括
H18.12.20 ~ H24.6.1 横浜地裁2刑部総括
H24.6.2 ~ H25.8.1 金沢地裁所長
H25.8.2 ~ 東京高裁8刑部総括と、エリートコースを歩む。
定年退官発令予定日  平成31年7月28日

 

1.「日本の刑事裁判官」での大島隆明裁判官。[第32期]

    (webサイトから転載)

特徴的な判決

■逆転無罪 【17/9】 ★業務上過失致死 / 天竜川転覆事故 被告人は事故を起こ
した船には乗っていなかった元船頭主任の方。1審の有罪被告人3名中、
ただひとり控訴していた   控訴審で被告人質問採用されず / 2017
年1月の1審判決から8か月後の逆転無罪判決★1審・静岡地裁/佐藤裁
判長の有罪判決を覆す at 東京高裁

■1審無罪支持 【16/11】 ★覚せい剤の密輸&関税法違反 / 被告人はタイ人2
名 裁判員裁判★1審・千葉地裁/金子裁判長 with 裁判員チームの無
罪判決を支持 at 東京高裁

■1審破棄、差し戻し 【16/9】 ★傷害★1審・千葉地裁/高木チームの無罪判
決を破棄、差し戻す at 東京高裁

■逆転無罪 【16/5】 ★心神喪失>殺人× 「心神喪失状態」 と主張し始めたのは
控訴審から★1審・長野地裁松本支部/本間裁判長 with 裁判員チームの
有罪判決を覆す at 東京高裁

■逆転全面無罪 【15/11】 ★殺人未遂ほう助も無罪×オウムによる東京都庁爆発
物事件×26(う)1331★1審・東京地裁/杉山裁判長 with 裁
判員チームの一部無罪判決転じて、有罪判決を覆す at 東京高裁

■1審無罪支持 【15/7】 ★強盗致傷など★1審・東京地裁/杉山裁判長 with 裁
判員チームの無罪判決を支持 at 東京高裁

■逆転無罪 【15/5】 ★背任×被告人は元弁護士★1審・静岡地裁浜松支部/青沼
チームの有罪判決を覆す at 東京高裁

■1審破棄、差し戻し 【15/2】  三鷹ストーカー刺殺事件の2審で東京地裁支部の有罪判決(懲役22年)を覆すat 東京高裁

●1審無罪 【08/11】 ★傷害×県立高校定時制の食堂で職員から生徒への注意の延長線上の出来事★ at 横浜地裁

●再審開始決定 【08/10】 ★横浜事件×第4次再審請求★ at 横浜地裁

●1審無罪 【07/7】 ★犯人隠避教唆×交通事故★ at 横浜地裁

●1審無罪 【07/2】 ★ビル虚偽登記事件★ at 東京地裁

●1審無罪 【06/8】 ★マンションで政党ビラ配布×住居侵入★ at 東京地裁

●逆転有罪 【07/12】 ★覆される by 池田(修)チーム/東京高裁

●1審無罪 【04/2】 ★現住建造物等放火&詐欺★ at 東京地裁

●1審無罪 【00/5】 ★業務上過失傷害×交通事故★ at 大阪地裁

 

 

2. 元オウム信者の菊地直子さんに対する東京高裁控訴審での逆転無罪判決。

東京地裁での第1審、裁判員裁判です。
菊池さんは、地下鉄サリン事件や猛毒のVXガスによる襲撃事件については不起訴となり、東京都庁の郵便物爆破事件で起訴されました。2014年6月30日に懲役5年の有罪判決。「爆発物がつくられるとまでの認識はなかった」として爆発物取締罰則違反幇助罪は認めなかったのですが、「教団が人の殺傷を含む活動をしようとしていると認識」していて爆弾の材料を運んだという罪で、殺人未遂幇助罪が認められたのです。
菊池さんは、特別指名手配されて17年間の逃亡生活の後に逮捕されました。物証はなく、危険物を運んだことは認めるが、爆弾の材料だとは知らなかったと主張しました。証人として出廷したオウム教団幹部の井上死刑囚は、活動の内容や目的を説明し爆弾のことも話したら、被告は「頑張ります」と応えたと証言。しかし、同じく教団幹部の中川死刑囚の証言では、被告は幹部ではなかったので、そんなことまで知らなかったということでした。

争点は、運んだものが爆弾の材料だったので、運搬した際にテロに加担しているという認識があったか、それともなかったかという点に絞られたわけです。結果は、殺人未遂幇助罪で懲役5年有罪判決。その決め手は、中川証言よりも井上証言の方が信用できるということと、自分が無罪であれば17年間も逃げているのは怪しいという理由でした。

東京高裁での控訴審。大島隆明裁判長が担当します。
菊池さんは事実誤認があるとして控訴。控訴審では2015年11月27日、「一審判決を棄却、被告人は無罪」とする逆転無罪判決が出されました。
有罪にした第1審は裁判員裁判でした。しかも「オウムは悪い奴らだから、みんな有罪にしろ」という風潮の中でのことです。誰しもオウムは怖いし、その一員だったのだから責任をとって当然と思っています。(この悪い奴らは理屈抜きに懲らしめてやればいいという考え方は大問題です)。1審判決を支持して有罪とし、量刑を少しまけてやるくらいでも良かったし、その方がマスコミや法曹界にも受けたことでしょう。

大島裁判長は、周囲の偏見に対して冷静でした。「疑わしきは罰せず」の原則に則り、刑事裁判のルール(デュープロセス)に従って毅然と無罪を言い渡したのでした。一審判決の判断は、経験則、論理則に反する不合理な点がある。
つまり、爆発物取締罰則違反幇助罪が成立しないのだから、爆弾の材料だという認識があったというのには無理がある。また、一審判決の根拠となった井上嘉浩の証言は合理性を欠く。つまり、かなりの年月が経過しているのに、些細なエピソードの記憶が鮮明過ぎ、反って信用性が薄い。さらに、長期間逃亡をもって殺人未遂幇助の意思を認定できない。
以上3点の理由で、有罪とするには合理的な疑問がある。疑わしいだけでは有罪にはできない。従って無罪とするしかないと判断したのです。世間の風当たりや批判を承知での勇気ある英断、近代刑法、刑事訴訟法の鏡といえる無罪判決でした。

また、大島裁判長は、判決の言渡しの後、証言台の前に立つ被告に「審理した結果、法律的には無罪となりました。ただし、客観的には、あなたが運んだ薬品で重大な犯罪が行われ、指を失った被害者が出ています。あなた自身が分からなかったとしても、あなたの行為が犯罪を生んだことを、心の中で整理してほしい」と諭したのです。

その後、2017年12月27日に最高裁判所で上告が棄却され、無罪が確定。

 

 

3.  2010年10月、大島裁判長が横浜事件に決着、実質的に被告は無罪の冤罪事件として認定。

横浜事件は、太平洋戦争中の1942年から1945年にかけての事件。総合雑誌『改造』に掲載された細川嘉六さんの論文「世界史の動向と日本」が新聞紙法違反とされ、細川さんが逮捕されました。そして、その捜査中に発見された写真が問題になったのです。細川さんの出版記念で宴会をしたときの記念写真一枚をとりあげ、それを唯一の証拠として、日本共産党再結成を謀議していたと決めつけられました。悪名高い治安維持法違反で改造社と中央公論社をはじめ、朝日新聞社、岩波書店などに所属する編集者、新聞記者ら約60人が逮捕され、拷問され悲惨なことに4人が獄死、約30人が有罪となりました。この事件は神奈川県警管轄の事件だったので、横浜事件と呼ばれています。

戦後、無実を訴える元被告人やその家族・支援者らが再審請求をし続けた結果、60年後の2005年に再審が開始されました。横浜地裁での再審公判では、免訴判決が下されました。免訴とは、刑事訴訟において、裁判所が有罪・無罪を判断することなく訴訟を打ち切る判決。確定判決を経ている時、刑が廃止された時、大赦があった時、時効が完成した時に限って出されます。「ポツダム宣言廃止とともに治安維持法は失効し、被告人が恩赦を受けたことで、免訴を言い渡すのが相当」という判決でした。高裁、最高裁ともにその判決を引き継ぎました。納得のいかない再審請求者はさらに再審請求を重ねます。

2008年10月、第4次再審請求審の横浜地裁で大島隆明裁判長が担当、再審開始を決定しました。その後の再審公判ではまたもや免訴の決定でしたが、大島裁判長は無罪の可能性を示唆。「免訴では遺族らの意図が十分に達成できないことは明らか。無罪でなければ名誉回復は図れないという遺族らの心情は十分に理解できる」と述べ、刑事補償手続での名誉回復に言及したのです。この判断を受けて、原告は控訴せず刑事補償手続きに移行しました。
(大島裁判長にしてみれば判決に無罪と書きたかったのでしょうが、そうすると高裁、最高裁で覆されるのは容易に想像できるのです。ここで無罪判決をだすことが、必ずしも最善ではないと考え免訴を選択、その上で刑事補償の法廷に舞台を移し、そこでもっと踏み込んだ決定を出すことにしたと思われます。法制度や裁判所や法曹界のしがらみの中で、実質的に無罪判決に導き冤罪被害者に報いようという知恵者の編み出した策です。

元被告遺族は刑事補償を求めて横浜地裁に請求手続き。審理担当は、またしても大島隆明裁判長でした。2010年2月4日、大島裁判長は元被告5名に対して、請求通りの金額(約4千7百万円)を支払うよう決定。その中で特高警察による拷問を認定し、共産党再建謀議とされた宴会は「証拠がなく事実とは認められない」と判示しました。
その上で、この冤罪事件は「特高警察による思い込みや暴力的捜査から始まり、司法関係者による事件の追認によって完結した」と認定し、「警察、検察、裁判所の故意、過失は重大」と警告しました。もし再審で実体判断が行われた場合には無罪判決を受けたことは明らかであると述べて、実質的に被告を無罪と認定し、事件が冤罪であったことを認めたのです。

 

 

4. 無罪判決を次々に出しても、公平で優秀だから評価が高い。

袴田事件の第2次再審請求審での村山裁判長の再審開始決定と似ていると思いませんか。大島さんは人間の自由と尊厳を大切にし、デュープロセスに立脚した公平な裁判ができる裁判官です。日本の裁判官にも硬骨漢が居ることを証明する貴重な方であるといっても過言ではありません。
司法記者からの評判はすこぶる良好。刑事事件では「被告人に適正な処罰を与える」のがモットーで、法曹界では「証拠を多面的にとらえ、検察、弁護側のいずれ寄りの立場も取らない異色の裁判官」という評価です。
(検察側、弁護側のいずれ寄りの立場も取らないのは、裁判官として当たり前のことですが、それが当たり前でないことが大問題なのです。裁判所(官)が近代の法体系の精神に立脚して仕事をすれば、自白の強要や証拠のねつ造は裁判ではねられてしまい、冤罪は消えてなくなるに違いないのですから)

『裁判官の品格』(池添徳明著)の中では、このように紹介されています。「実務実習などでも一緒で親しかった同期の弁護士は、「博識ですごく頭のいい人です。人をやり込めたりすることもなく、穏やかな感じで人の話もよく聞く。何にでも幅広く興味をもって好奇心が旺盛でしたね」と当時の様子を振り返る。」「無罪判決を次々に出しても、公平で優秀だから大島さんは裁判所の中で浮いていないし評価もされている。東京地裁や横浜地裁といった大都市で裁判長を任されているのも、信頼されているからでしょう。良識派の珍しい裁判官だと思います。」
以上のような経歴をもつのが、袴田事件再審請求即時抗告審を担当している大島隆明裁判長です。
これまでの即時抗告審での経過を見ると、内容的な勝負はついています。明らかに検察側の負けです。しかし、そうだからと言って勝訴するとは限りません。それは、静岡地裁での確定判決がそうであったように、そして多くの刑事裁判がそうであるように、最終的には裁判官の心証や考え方(知見、時には偏見)に結果が大きく左右されるからです。
即時抗告審の決定は、再審開始とともに死刑と拘置の執行停止にまで踏み切った村山裁判長の勇断の後に続き、その当否を判断するわけです。私から見ると輝かしい経歴を備えている大島裁判長、来年定年退官を迎えます。袴田事件という世界から注目されている裁判に、今回どんな決定を出されるのでしょうか。

(文:和泉湧)