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袴田さん支援クラブ

袴田巖さんに再審無罪を!

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袴田巖さんの再審を拒む検察―DNA検証実験をめぐって 袴田事件弁護団 角替清美弁護士が講演

(「キラキラ星通信」第94号(無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会 2017年8月6日発行)より転載)

公開学習会(PART36)

「袴田巖さんの再審を拒む検察―DNA検証実験をめぐって」

袴田事件弁護団 角替清美弁護士が講演

7月2日(日) カトリック清瀬教会

袴田事件 どうもみなさん、今日は貴重な日曜日にわざわざ袴田事件の話を聞きに来てくださってありがとうございます。そして長年にわたって袴田さんを支援してきてくださって本当にいつもありがとうございます。今日は私の方から袴田事件についてお話をさせていただきます。その話の中心は、袴田事件というとDNA鑑定という話が話題になってますので、それについて担当していますので、その話をさせていただきます。余談なんですけど、実は私も日本キリスト教団に所属するクリスチャンで、今朝も教会に行ってきたんですけれども、まさか壇上で話すと思わなかったので恐縮しているんですけれども、このまま話させていただきます。

まず前提として、袴田事件でいま、検証がどうのとか静岡地裁が認めた鑑定が否定されたのどうのというのが報道でいろいろ出ていますが、それについては、はっきり言って、弁護団から見たら先日出た最終報告書でもう決着済み。結局は何の問題もなくて、袴田さんを無罪と認めた証拠の一つの「本田鑑定」、本田先生の鑑定の信用性は逆に裏付けられたという位置付けです。客観的にそうなんですけれども。最近よく報道でみる話はその辺の話なんですけれども、正直あまり重要でもないと思いますし、みなさんにそこの話を細かく話をしてもおそらく理解できないと思いますので、私の方からは袴田事件についてのDNA全般について、どんな経緯でDNA鑑定を行うことになったのか、そのDNA鑑定はどのようなものだったのか、そういうところについておおまかな話をしていきたいと思います。

 

袴田事件のDNA鑑定とは

まずDNA鑑定というのは、袴田事件に限らず最近よく裁判で話題になるものですけれども、通常人の血液と思われる血痕、そこから人間のDNAを抽出して、その型を調べるというものならみなさんおわかりだと思います。人に何兆個とある細胞の中の核に入っているDNAを調べる検査になります。よく使われているのが血痕から取ったDNAです。袴田事件のDNA鑑定はどんなものだったのかというと―基本的にはみなさん支援者なので、あまり前置きをしないで、みなさん知っているものとして話します―、袴田事件では、犯人が残して行ったものだと、だから被害者の血がべっとり付いてたり袴田さんの血が付いているとされてる「五点の衣類」という着衣があって、今回DNA鑑定と言っているのは、その「五点の衣類」と言われる洋服に付いている血液のDNA鑑定の話になります。じゃ、実際にDNA鑑定をした試料がどんなものだったのかというと、これ(次頁写真。編集注。以下同じ)が五点の衣類のうちの三つの着衣、サンプルになります。おわかりの通り血がべっとりと付いてます。ここ(半袖シャツの右肩部分)は袴田さんの血だと言われているものですけど、ここにもべっとりこっちにも当然べっとり。そういうふうに血がたくさん付いています。通常の世間で騒がれている事件でDNA鑑定という時に、これだけの血痕が付いているということは非常に珍しいです。最近よく聞く事件では、犯人が触ったスマホから犯人のDNAが出たとかいう話題。今の技術では、犯人が触ったスマホを犯人が土の中に埋め、それを掘り起こしたものからもDNAが検出されたと捜査機関は言って、あれが犯人だということで捕まえてます。ちなみにこの話は、ちょっと前に話題になったハッカーみたいな、人になりすましのネット上でいたずらする事件の話です。そんな中で、袴田事件で行われた鑑定の試料は、これだけ血がべっとりと付いた試料だった。通常、血痕からDNA鑑定してDNAが出たら、それは血液のDNAだというふうにみます。そんなのは当たり前のことであって、今まで議論されたことありません。そういう前提になっています。

袴田さんの事件では、こういうふうに血がべっとりついている試料を検察側の山田鑑定人、弁護側の本田鑑定人―二人とも裁判所が指名している鑑定人なので、本当は裁判所の鑑定人なんですけど―、それから裁判官三人、裁判所の職員、弁護人、検察官、その一同が―もちろん防備する、余計なものが出ないようにゴミが出ないように服は気をつける―同席の上、専門家の二人が「ここ血が付いていますね、よしここからサンプル切り取ってDNA鑑定しましょう。ここは袴田さんの血と言われているものですから、ここのものは取ってDNA鑑定しなければいけませんね」。そういうことで試料を取ってDNA鑑定が行われてます。私が言いたいのは、要はこれだけの非常に優良な試料からDNA鑑定が行われている。一七年前の鑑定で、「血液型」もこのサンプルから検出されています。血液型を調べるというのはDNAを調べるよりも難しい。何でかというと、細胞があって、DNAは核の中にあるので、核に守られて非常に保存状態がいいんですけど、血液型を調べるものはたんぱく質なので、細胞があったら核の外側にある物質の性質を検査している。ということは、血液型が一七年前に調べられたのであれば、今の技術で当然調べられるということで鑑定をやってます。じゃあ何で一七年前にDNA鑑定は出来なかったかというと、その時はDNAを抽出する時に、不純物を除去する手順がまだ今ほど発展していなかった。だから味噌の成分とかそういうものを除去するのが難しくて、なかなかDNA鑑定は出来なかったんじゃないかというふうにも言われています。いずれにしても、一七年前のDNA鑑定技術と現在のDNA鑑定の技術では、全然もう比べるものじゃないので、その辺のところは技術の進歩とともにDNA鑑定ができるようになったということです。

 

「対照資料」と「ブラインド検査」

静岡地裁でDNA鑑定をやるという時に、検察官は当然反発しました。やらせたくないから当然なんですけど、どうせ出るわけない、出てもそれが血液のDNAなのか何なのかわからない、いろんなことを言ってくる。そういう中で、じゃあ何かズル出来ないような工夫をしましょうということで、裁判所と、これは弁護側が言い出したことなんですけど、普通ではやらないような工夫をした。何をしたかというと、さっき言った血痕のところから取った一六個のサンプルに対して、一一個の「対照試料」を取りました。対照試料って何かというと、「ここに血がついています。じゃあここからこの部分を取りましょう。その横にこれ血液ついていなさそうですよね、そこもちょっと取りましょう」。で検査がちゃんと出来ているかどうか確認できる。両方からDNAが出ていたら、それおかしな話だという話になる。そのサンプルの数は一一個、非常に多いです。それは検察側がやっぱりそういうことを求めてきたので、対照試料をたくさん増やした。

もうひとつは、「ブラインド検査」というのを行いました。これは弁護側から申し入れたんですけど、どういうものかというと、鑑定の内容は、五点の衣類に付いている血液が被害者のものかどうかがわかればもちろんいいんですけど、なかなか被害者のDNA型を知るのも大変なので、主な争点は、これ(半袖シャツ右肩の血痕)が袴田さんの血液かどうか、袴田さんのDNAがここから検出されるかどうか。そこが大変な争点になるというのは最初からわかっていました。なのでブラインド検査をした。どういう事かというと、検察官も難しい難しいって言ってるし、確かに何十年も前の試料だから、まずは五点の衣類のDNA鑑定をしましょう。二人の鑑定人が五点の衣類のDNA鑑定をして、「よし、自分はこの五点の衣類から信頼できるDNA型を取れました。自分が出したDNA鑑定の結果は信用できます。この型はここについている血痕の型です」という自信が

ある結果が得られた鑑定人だけが袴田さんの血液を採りに行きましょう。それから袴田さんのDNA型を検査して、それが五点の衣類についている血液と一致するかどうかをやりましょうと。そうしないと、最初から袴田さんのDNA型がわかっちゃったら、答えがわかっているようなものなので、検察からすれば弁護側の鑑定人が袴田さんと違う型にDNA型をあわせるとか―そんなことしないですけど。こちらからすれば、検察側が袴田さんの型に合わせるとか、型に合わなかったら信用できないと言い出すとか。そういうことができないように、信頼できる型をまずは五点の衣類から採って、その型が採れたそういう自信がある鑑定人だけが袴田さんの鑑定ができる、そういう手続きを踏みました。これによって答え合わせができない、ずるができないDNA鑑定になりました。

 

DNA鑑定の結果

まず山田鑑定人(山田良広・神奈川歯科大大学院教授)は、STR(Short Tandem Repeat短いDNAが繰り返し並んでいる部分)のDNA検査と、ミトコンドリアのDNA検査をやりました。よく巷(ちまた)でDNA検査と刑事事件で言われているものは、STRのDNA検査です。STRの方については彼は、標準の手法じゃなくて若干信頼性が薄くなるような手順を使ったので、結果もいまいちでした。ということで彼は「私のSTRの結果は信用できません。だけどミトコンドリアは専門なので―歯科医なのでミトコンドリアのDNA鑑定が専門―、ミトコンドリアDNA鑑定で得たDNA型については私は自信がある。そしてさっきの右肩袴田さんのものといわれるところからは型を採れました。だから私も袴田さんの検査をします」というふうに言いました。一方本田鑑定人(本田克也・筑波大教授)は、標準の手順のSTRしかやってません。DNA検査としてはただのマニュアル通りにやってるだけなので、信用のできる型が出たと彼は判断して「私の出したDNAの型は自信があります。だからこの型で袴田さんの型と比べます」と。そういうことで、裁判所において「じゃあ二人とも五点の衣類からDNA鑑定出来ましたね。じゃあ二人で袴田さんの血液を採りに行ってください」ということで、二人で東京拘置所まで行って、袴田さんの血液を採ってきて、袴田さんのDNA鑑定をすることになりました。

結果はどうだったかというと、山田鑑定も本田鑑定も、袴田さんのものと言われていた血痕と袴田さんのDNAは一致しないという結論が出ました。山田さんの方は、自分のSTRは信用できないと言っているので、基本的に比べているのは袴田さんのミトコンドリアDNAと五点の衣類のミトコンドリアDNAです。それと合わない。本田さんの方は、普通のDNA型、それが袴田さんのものと合わなかった。だから「合いません」という結論が出ました。二人とも同じ結果です。これでとりあえずDNA鑑定は勝負あったなと私たちは思うわけです。ところがこれが法医学会の不思議なところなんですけど、山田鑑定人は、裁判になって証言台に立った時には、いきなり 「あのー、私のミトコンドリアDNAの鑑定、あれ信用できないですから信用しないで下さい」と。「だから私の結果は袴田さんのと一致しなかったけど、信用しないで下さい」と、いきなり自分の鑑定結果を否定しました。だって信用できる結果が出たから袴田さんの血液採りに行ったんですよね。「いや、それはそうなんですけど、でもよくよく考えたら、コンタミ(contamination他人のDNAが混入して汚染されていること)の可能性もあるし、一致しなかったけど、それはコンタミのDNAかもしれないから信用しないで」という証言になりました。この人の証人尋問は非常に面白かった、裁判長もしまいには笑ってたような証人尋問だったんですけど、本当にそういう驚く証言をしました。

検察官は、本田さんのDNAは間違っていると争ってきました。山田鑑定人は自分で信用できないと言ってくれたからもういいんだと。本田をつぶすんだということで、本田鑑定人の出している型は血液の型じゃない、何かよくわからないものが血液に一緒に付いてて、その型を出している、だから本田鑑定人の結果は信用できないんだと言ってきました。それからもう一つ、本田鑑定人と山田鑑定人の結果が違う、だから信用できないという主張をしてきました。でも結果は違わないんですよね。山田鑑定人は自分のやったSTR型検査は信用できないって最初から言ってた。それでミトコンドリア鑑定をして袴田さんのものと一致しなかった。一方、本田鑑定人はSTRのDNA検査をして、それは信用できると判断して袴田さんのものと比べたら、一致しなかった。だからこの二人の結果って何も違わない。何も違わないのに、山田鑑定人のやったSTR検査は信用できないと山田鑑定人が言ってるんだから、本田鑑定人のやったSTR検査も信用できないという主張をしてきていました。

 

「バナジウム法」と「選択的抽出法」

もう一つ最初から議論になっていたのは、「バナジウム法」と「選択的抽出法」。いまも話題になっている、本田さんの使った手法は信用できないという内容でした。

DNA鑑定にはいくつか段階があって、まずはサンプルを採る。そのサンプルから成分を溶かす。そこからDNAだけを抽出する。その抽出したDNAを増やす。その増やしたDNAの型を判定する。全部これ機械操作になっているんですけど、そういう手順があります。本田先生の「バナジウム法」というのは、DNAを増やす時にちょっとバナジウムというものを加えて増幅を促進させるという手法です。「選択的抽出法」というのは、試料から成分を採る時に、なるべく血液成分を多く採ろうということで、ちょっとひと工夫した選択的な抽出法を使っています。

何でこんなものをやったかというと、DNA鑑定やりましょうという話が出ました。そしたら検察官は、いやいや古い試料だし、たくさんコンタミが混じっているから、採ったDNAが血液のものかどうかわからないから、やってもしょうがないみたいな主張をしました。裁判所は、確かに血液のものってよくわかる方法ないんですかねえみたいな話が出ました。本田先生は最初から、血痕からDNA採ったらそれは血液のDNAだから、そんなことをする必要がないと言っていました。もちろんそれに基づく意見を弁護団も述べました。だけどあんまり検察官がそう言ってくるので、裁判所は本田先生に鑑定を依頼する時に、採ったDNAが血液のものかどうかなるべく確実にしてもらいたいと。なるべく血液からDNAを採れるような方法があればそういう方法を使って欲しいと裁判所から依頼がありました。なので本田先生は、自分はこんな手続きする必要ないけど、裁判所がそう言うのであれば、選択的抽出法というので工夫しましょうということでこの辺の手順を入れたということです。

ちなみに山田鑑定人も同じ鑑定依頼を受けたんですけど、山田さんは何にも特別なことはやってません。尋問で、裁判所で頼まれたのにどうしてやってないんですかと訊きました。そしたら山田鑑定人は、「いや、だって血痕からDNA採ればそれは血液のDNAなので、そういうことは必要ないと思いました」という当たり前の回答をしてました。そういうものなんだけど、裁判所に頼まれたので、手続きを一つ加えた。とにかく検察官はこういう主張をしていた。

もちろんいろんな反論、弁護団もしたんですけど、結局静岡地裁の決定はどういう決定だったかというと、DNA型は血液の型です、普通そうでしょっていうのがまず第一にあって、それからたくさん採った対照試料、血が付いていないと思われるところの試料からは型は何も検出されていない。対照試料から検出されていなくて血液のところから型が検出されてるなら、それは普通血液の型でしょっていうのが静岡地裁の決定の内容でした。それから、いくら古いとはいえ、この試料は裁判所で袋に入れられて、紙に包まれて倉庫の中で大事に保管されてたものです。そういう中で、誰かがそれにツバをつけるとか、べたべた触るとか、そういう可能性はないし、第一そんな可能性を検察官が主張もしていない。こういうことがあったからこの時に付いたはずだとかいう主張するべきだけど、そんなこともしないでコンタミの可能性を議論したって、わけのわからない型が混じったっていう具体的可能性もないでしょと。それが裁判所の判断でした。選択的抽出法は何回も国際論文に発表されてるし、バラジウムは国際論文にとっくの昔に発表されて特許も取得しているものであって、特にその手法を使ったからといって、DNA鑑定が駄目になるとかそんな話ないでしょと。ある程度信用できてそれなりに効果もあるんじゃないですかと。そういう静岡地裁は判断をしました。

 

検察は本田鑑定をつぶしたい

検察官は即時抗告して高裁で主張しているんですけど、これが本当にひどい主張です。ここでちょっとはずれるんですけど、私とか、たぶん弁護団はそうみな思っていると思いますけど、検察官がいま争ってきているのは、本当にただひたすら本田鑑定をつぶしたいと、それだけのためじゃないかなと思うんですね。袴田さんの無罪なんて、そんなの五〇年前にわかってたことなんですよ。あんな証拠で有罪になっていること自体がおかしいんであって、袴田さんが無罪なんてことはもうみんな知ってると思うんです、検察官も。法医学者の仕事の九九%は検察の仕事です。検察とか警察は法医学者にとっても大事なお客様です。捜査機関に干されたら法医学者は仕事ありません。研究材料もなくなる。だから本田教授も当然そういう一人で、圧倒的に検察からの仕事の方が多い。彼は本当に科学に忠実な人で、例えば、弁護団から依頼された死刑事件も彼は鑑定したことがあります、いままでも。そしたらその死刑囚のDNAと犯人のものとされるDNAが一致しちゃった。本田さんは、これ一致しますという鑑定書を出しました。でその人は死刑になりました。同じように検察官に対しても、彼は違うものは違う、認められない結果は認められない、認められる結果は認められる、はっきり言う人なんですね。足利事件の鑑定も本田さんがやっているし、飯塚事件の鑑定も本田さんがやっている。科学に忠実で検察の顔色を見ない、そういう人なんですね。なので、きっと今回こんなのまで彼の鑑定が認められたら、これからますます困る事になると考えて、とにかく本田鑑定をつぶしたいという目的で即時抗告を争っているのが検察だと私は見てます。

本当に、検察官の本田鑑定人に対する主張はひどくて、まず地裁でDNA鑑定やるかどうか、その鑑定人を誰にするかっていう話をした時に、こちらは本田鑑定人を推薦しました。あちらは山田鑑定人を推薦した。そしたら検察官は、書面でこういう意見書を裁判所に出してきた。本田さんていう人は、足利事件で非常に不適切な鑑定を行って審理を混乱させた。だからそんな人が袴田事件のDNA鑑定をやったら非常にまずいことになる、不正義なことになるから、本田鑑定人を鑑定人として認めるべきじゃないと。だけど足利事件といえば、本田先生が一七年前の捜査機関の鑑定の間違いを指摘して、それが明らかになったから、無実で牢屋に捕まってた菅谷さんが一七年ぶりに釈放された事件です。本田先生は足利事件で捜査機関の誤った鑑定を正して、無罪の人を救済した鑑定人です。にもかかわらず、あろうことかその足利事件を使って、よくもそんなことが言えるなあと。しかもよくも堂々と裁判所に書面で出して言えるなあと。その神経は本当にその時に疑ったんですけど、こちらはそういう意見書を出しました。それで裁判所も相手にしませんでした、検察のその意見は。とにかく私が言いたいのは、検察官は、最初から本田鑑定人を何とかしてつぶしたい、何とかして排除したい、そういう言動がありありと見えていました。

 

 東京高裁での検察の主張

高裁の話に戻しますけど、(検察が)高裁でどういう主張をしてきたかというと、すごいんですよこれはね。「本田鑑定人は、本当は出ている型を書き換えて鑑定している」、「実際には本田鑑定人の型が出ているんだ」と。DNA鑑定で出ているのは、本田鑑定人の型なんだなんていう主張をしてきた。これもびっくりなんですけど、じゃあその主張の根拠って何なのという話です。ちょっと先に進みますけど。これがDNA鑑定した時の表です(プロジェクター画面)。こちらは本田鑑定人がDNA型鑑定した時の表で、こうピーク(グラフの波型の上の部分)があって、このピークが出ているところが型で、「何型」みたいなそういう判定なんですね。これ最終段階でDNAが増幅された後に検査してるとこです。全部オート化されているので、こういう型は自動的にバババババーバーと出るんですね。そういう時にどういうことが行われているかというと、機械のその時の調子、光の加減、室内の温度なんかもあるので、そんなに厳密じゃないと思われますけど、基準となる、(ピークが)ここにあったらこの「型」なんだよみたいな「アレリックラダー」と呼ばれるものが一緒に流されているんです。そして一緒に流されているアレリックラダーに自動的にババババババーと反応してここに数値が出るわけです。これは11、これは12と出てくる。そういうふうにして「型」は出る。それを書き換えているという根拠にしたのは何かというと、あの人たちは、本田鑑定人のこのグラフ―当然証拠で鑑定書に出てます―をコピーして拡大したんです。そして自分たち、科警研でアレリックラダーを流して、本田先生の表とこの科警研のアラレリックラダーを張り合わせて、定規引いて、「ほら11じゃなくて本当は12でしょ」みたいな、だから書き換えていると言う。そんなバカな話、小学生の自由研究じゃないんだから、こんなことしてるんじゃないんですよ、法医学の世界は。こんなもの並べて比べてるわけじゃないんですよ。一緒に流してて、ここに数値が出てくるんですよ。それを全然違う機械で流したアレリックラダーを、あろうことか上下に並べて定規引いて、「はい、ずれていますね。だからあなた偽造してますね」って、そういうことを平気で言ってきてる。こんなことを弁護人言わないですよ、どの事件でも、鑑定人に対して。検察官だからこういうことが言える。権力者だからこういうことが言える。だから本当にひどい、悪質だと思うんですけど、こういうことを一つ言っておきます。もうそういうふうに反論してるので、取るに足らないトピックです。

もう一つ(検察が)言ってきたのは、「バナジウム法は信用できない」。立派な京都大学の玉木教授という方、それから科警研の関口さんという方の意見書が出てきました。「本田先生が使ったバナジウム法というのは、論文見たけど再現も出来ないし、これロクでもない、とっても信用できない」という意見書を出してきました。バナジウムって前からトピックにはなっていたんですけども、本田先生という人も、自分はただ単に科学に忠実にやっているだけだから、くだらない反論とかしない人なんですよね。「自分はただやってるだけだから。別に検察が認めなくたって、それは科学が将来証明するから」。そういう人なので、私達もこれから話すこと高裁で初めて知ったんですけど。私達が見つけて本田先生に聞いたら、「おーもうね、とっくに使ってんだよ」みたいな話で。だったら最初から地裁のころから言ってよみたいな話なんですけど。

バナジウムというのは、一〇年も前に本田先生が検察側の鑑定人として使っている手法なんです。非常に難しい、争いのある鑑定ですけど、難しいからこそバナジウムを使って鑑定した。その当時はバナジウム法は論文発表もされてなかった。特許もとってなかった。殺人事件だったんだけど、当然被告人の弁護人は、バナジウム法はまだ誰も使ってない方法だから信用性に欠ける、そういうものを基にしたDNA鑑定は信用性に欠ける、だからこの人は犯人じゃないという主張をしてました。それに対して、検察官は何と言ってたかというと、バナジウム法というのは、一般に用いられている増幅の手順を改良しただけで、化学反応としても別に一般に行われている化学反応だから、ぜんぜん今までのPCR法と変らないと。PCR法というのは増幅法としては従来のものと変らないし、信用されてる。増幅効率がいいということも今回証明されてるし、バナジウム使ったPCR増幅の方法の科学的根拠は十分なんですよと。更に遡って平成一五年頃、本田先生はもうバナジウム法を科警研のために使ったんですね。そしたらそれで見つかった犯人が自白して、それで犯人が突き止められた、そういう裏づけがある、成功体験もある方法なんだ、だからバナジウムを使った増幅手法が十分信頼のある科学的根拠を有するものであることは明らかですと。そういう主張を一〇年も前に検察官が裁判所にしてる。裁判所も何回も筑波大とかに足運んで検証して、このバナジウム法に問題はないですねと。そういうことで本田先生の鑑定を根拠に、殺人犯人とされる人の有罪が確定して、最高裁でも確定しました。懲役一五年です。その後にも本田先生は論文発表もして、特許も取った。その後の鑑定でも、ずっとバナジウムを検察から依頼されたDNA鑑定で使い続けてる。それを使って何人も有罪にしているんです。

それなのに検察は、袴田事件のDNA鑑定では、バナジウム使うから信用できないんだ本田先生の型は、と主張する。この人達、何に基づいて意見書いているのかなあと思うんです。この京都大学の玉木さんとか科警研の関口さん、同じ意見をこの裁判のために書くんですかね。いったい法医学って何なのかなと。そういうところにとっても大きな疑問を感じる。これについて当然私たちはすごい反発したわけです。地裁の時は知らなくて、高裁になって初めてこういうこと知ったんですけど、あんたたち言ってること全然違うじゃん、使ってるじゃん、自分たちがと。このバナジウムの主張取り下げなさいよって言ったんです。そしたら何て言ったか検察官は。「全く同じ手順ですか。温度とかも一緒ですか。室温とかも?」 そういうふうに開き直る、平気で。裁判所は、バナジウムについてはまあまあこれはもういいでしょう、もう何回か使われているものですし、というところでバナジウムの議論は終ってるんですけど、本当にそれだけの問題ですか? 弁護人としてはそう思うんです。自分たちが信用できる信用できるって何人も有罪にしている手法について、平気でこんな主張する人たちの、「選択的抽出法」についての主張は信じられる? 何でそっちの話だけ信じられるんですか。こんなこと言う人たちなんだから、だいたいにもってそういう主張してるんじゃないんですかって。こんな主張はしません、弁護人だったら。まあ選択的抽出法は信用できないっていうのが残ってて、結局、名古屋市立大学の青木さんとか科警研のまた関口さんとかも意見書で、「選択的抽出法信用できません」みたいな話で、いまの検証実験に至ってる。

だけどこの選択的抽出法っていうのは、二回もそれの関連で本田先生は科学誌の国際論文に発表してますし、「査読」も入る。査読というのは、検証するチームがあって、あなたのこの研究どうですかというのをチェックするんですけど、そういうチェックも経て国際論文に二回も掲載されてる。しかも最近ではインド政府の科学捜査研究所の研究チームが、本田先生と全く同じと言ってもいいレクチンを使った選択的抽出法をやって、非常に効果が高かったということで、国際論文で発表されています。今回、結局最終報告は本田鑑定人の選択的抽出法を裏付けているんですけど、「中間報告」というものが出てきて、選択的抽出法はDNAを消失させるみたいなことが書いてある。じゃあ何、このインドの人達はウソついてるのと。本田先生とは何の関係もない、知り合いでも何でもない。本田先生の論文は当然引用してます、本田先生の論文の中身とほとんど同じなので。そういう海外の科学者がきっちり出しているものを否定できないと思う。否定するとすれば、とても非科学的な議論だと思うんです。

 

DNA検証実験の最終報告

それでちょっとここで先週出てきた鑑定文を、結果についてちょっと報告すると、このグラフを見ると、これがDNA型鑑定の「型」というものなんですね。これ一番新しいのでごめんなさい、何もこっちのスクリーンには用意していないんですけど、この一番左方の番号1から33がサンプル番号で、これ検証実験をやった鈴木鑑定人(鈴木広一・大阪医科大教授)の結果です。このD何とかとか、C何とかとか横に出てる、これが「ローカス」(染色体やゲノム上での遺伝子の位置)と言って、DNA鑑定というのはだいたい一六のローカスについて鑑定をします。ここに20、24とか10、12とか13とか数字が出てる、これがいわゆる「型」と言われるものですね。型は一つだったり二つだったりするし、二つあっても一つしか出ない時もある。この数字がDNA型の「型」と呼ばれてるものです。1~33見ると、この太い枠で端から端まで覆ってあるのが、もとの基準型というか。「試薬」のところにオーソストロングと書いてある、これが本田先生が使ったレクチンを混ぜたものです。要はこれを見ると、結局「型」出てるんですね。もちろん本田先生は、古い型なので完璧に出るなんてことも言ってない。だから完璧なわけじゃないけれど―誰も完璧は求めてない―、要は「型」が出てるんですここに。みなさん中間報告の新聞報道なんかも見てくれたと思うんですけど―最終報告の新聞報道は間違ってますけど―、1~33までの中間報告、DNAが消失したとか言ってる。オーソレクチンを混ぜるのは禁忌(きんき)だ、混ぜちゃいけない試薬を混ぜてると言ったけど、「型」が出ている。DNA鑑定って言ったらこれがすべてです。DNA鑑定を頼んだらこれしか出て来ません。もちろん、手順とか出てくるけど、結果はこれがすべてです。しかもこの結果は、中間報告を鑑定人が出した時には、鑑定人はもうこの結果を知ってた。グラフをプリントアウトした日でわかる。それなのにあの中間報告を見ると、普通のDNA鑑定ではやらないような何か検査をしてるんですね。何か棒ならして、目視でDNAが見えるかとか。そんなことやりません、DNA鑑定では。なぜかそれをやって、ほんとに見えないのかも問題あるんですけど。実際鑑定人の言ってる通り見えなかったとしても、「目視的にDNAが見えなかった、だからDNAは消失した」という中間報告を出すわけです。中間報告の時はこの結果が出てたんですから、別にこの結果出せばよかっただけなんですよね。それを中間報告が出た後三か月以上も経ってから出してくる。どうしてなのかなって本当に疑っちゃうんですけど。

いずれにしろ、最終結果がこれで出てきたので、鑑定は出来たっていうだけの話です。でもかといって別にその鑑定の報告書が立派だったわけじゃ全然なくて、おかしな鑑定報告。中間報告では目視でDNAが見えない、だからDNAは消失した、だからレクチンを混ぜるのは禁忌なんだという一足飛びの結論をして、全然論理性も何もないんですけど、最終報告では何と言っているかというと、あの薬はDNAを破壊する、だからDNAが減少したと。DNAが見えなかったからあの薬はDNAに悪いんだ、あの薬はDNAを破壊するんだと中間報告で言っといて、最終報告ではDNAの破壊する薬を使ったからDNAが減少しているんだと。何かただ単に原因と結果を入れ違えただけの議論してて、全然意味のない報告書です。いずれにしろ「型」が出たというところに限っては価値があるかなというもので、これでもうDNA鑑定の議論は終わったのかなあとこちらは思っているんですけど。それで裁判所には、結論はわかったからもういいじゃないですか、これ以上無駄な時間費やして鑑定人に話聞く必要ないでしょという申し入れもしているんですけど、裁判所は、鑑定っていうのは書面で出してもらって、口頭でそれを説明してもらって手続き的に完結するものなので、まあやらないわけにはいかないんです。まだやるとは決めていないんですけど、まあやるものなんです、みたいな感じで鑑定人を呼ぶ期日が入ったというわけです。(九月二六、二七日)

私の言っていること極端に聞こえるかもれないんですけど、(検察は)本当にこういう議論をしてくるんです。私も三〇過ぎて司法試験の勉強始めるまでは、工学部卒業で普通の会社員で技術屋として働いていたので、こんな議論、成り立たないですよ、普通の社会じゃ。こんな議論がまるで何かたいそうな議論のように議論されて報道されてる。でも本当にやっている中身はおかしな議論なんです。だからそれをどうやって正せるのか、本当に毎日考えてもなかなか難しい、わからないですけど。まあ検察というのは、正しい事する時がほとんどなので、そうなっちゃうのもしょうがないかもしれないけど、間違ったことは間違ったって、ただ認めればいいだけだと思うんです。九五%正しい人だって、五%間違える時がある。誰もそんなものは責めないわけですから。本当にDNA、DNAって、一見わかりやすく見えるから報道もされるし、すぐみんなそっちの方に飛びつくんだけど、本当に議論の価値のないものです。だから本当はこんな所に来て話したくないんですけど、みなさんがDNAというと何かたいそうなことしているように感じて興味を持つ。本当にたいそうな話していないので、それをわかってもらいたいというのがまず一番です。

 

みなさんが裁判所を変える

袴田さん、本当に高齢になってきて、前回の三者協議では裁判官も年内ぐらいには最終意見書出す方向でお願いしますみたいな雰囲気でした。まさかひっくり返るとは思っていないのでもうすぐ終るんでしょうけど、(お姉さんの)秀子さんは、五〇年待ったんだからあと二~三年どうってことないと、本当にすばらしい気丈な発言をしてくれてます。だけど袴田さんもう年なので、本当に終らせてもらいたい。袴田さんの手紙、今日の資料にも入っている手紙、本当に感動的ですし、私が忘れられないのはもう一つ、まだ袴田さんが正気だった頃、正月に書いた日記があって、袴田さんは、事件当時一歳だった息子さんのことをものすごく可愛がっていたんですけど、その子について書いてあって。正月にお餅が出た。とっても柔らかい白い餅が出た。これはまるで自分の息子のほっぺたのようだと。いまあの息子は成人して立派になってこんなほっぺたしてないだろう、自分の心の中では、息子はいつまでも………何か私、その手紙を思い出すと(絶句)………何だか今日は教会なのであれかもしれないです。息子さんの話が出てくると、気丈な秀子さんもちょっと正常心でいられないような感じなんだけど、そういう息子さんとも離れられてもう何十年、これ以上つらい思いをさせる必要ない。………(涙)………みなさんが援助してくれてここまで来たので、早く終らせたい。このくだらない議論のために袴田さんの人生を費やしたくないと、そういうふうに思ってやってます。

でどうすればいいかというと、みなさんが裁判所を変えることが出来ます。実際袴田事件がこうやって再審認められてるのも支援のおかげです。弁護団のおかげじゃない、支援のおかげ。それから、事実に忠実な証言者の人もいます。B体(ずっと五点の衣類のズボンのサイズとされてきたが、実は色のことだったと証拠開示で判明。検察は知っていながら隠していた)の、昔のことなのに「いやこれ事実と違うから」といって証言してくれる人もいる。それから、検察にボコボコにされてサンドバックのように殴られながら、科学の正しいところを追究してくれる鑑定人がいる。そういう人たちが、結局みなさんの声が裁判所を変えて、いま袴田さんが釈放されている。だからこれをぜひ続けてもらいたいんですね。私が最初に袴田事件を知ったのは清水の集会で、本当に三〇人もいなかったような集会でした。その時におかしいなと思って、結局司法試験受かったので弁護団に入ったんですけど。それで私が入って、自慢じゃないんですけど、それまでみんな一所懸命やってて、DNA鑑定も一回やって駄目だと思ってたので、DNA鑑定なんか全然動かなかったんですよね。だけど支援者の人たちがDNA鑑定DNA鑑定ってしつこいんですよ。私も新しかったので、「そんなに支援者の人が言うなら、じゃあ本田先生に一本連絡入れてみようか」と言って書いた手紙でここまで来てます。だからここに興味を持って来てくれている方の一人が、本当に裁判官とか検察官を変えてくれるかもしれないので、ぜひ手紙の一本でもいいです。何でもいい、知り合いに話すのでもいい、この事件に興味を持って、この事件が本当におかしいんですよということを伝えていってもらいたいと思います。

ということで、すみません何か途中変になっちゃったんですけど、私の話を終りたいと思います。ありがとうございます。

(テープ起こし・大竹。文責・松田。文章の内容が変らない範囲でまとめさせていただきました)

 

 

DNA鑑定報道に関するお詫びと訂正(朝日新聞2017年8月3日朝刊)

訂正して、おわびします 2017年8月3日朝刊

▼6月6日付夕刊社会面と同7日付朝刊社会面の、静岡県で1966年に起きた一家4人殺害事件で再審開始が決定した袴田巌さんの即時抗告審に関する記事と見出しに誤りがありました。鈴木広一・大阪医科大教授が東京高裁に提出した検証報告書の内容を報じた部分で、再審開始決定の決め手となった弁護側推薦の法医学者のDNA型鑑定について「再現できず、信用性がない」とあるのは、「鑑定手法としては不適切」の誤りでした。また、鈴木氏が「『試薬がDNAを壊した』と指摘している」とあるのは、「『試薬がDNAを壊したと考えられ、鑑定手法としては不適切』と指摘している」の誤りでした。鈴木氏の検証でもDNAが採取されたケースがありました。表現について関係先への確認が不十分でした。

朝日新聞2017年6月30日朝刊

静岡)すり替えられた証言袴田事件発生から51年

朝日新聞朝刊

供述調書をみながら話す男性=三重県内

51年前に旧清水市で起きた一家4人殺害事件(袴田事件)で、「犯行時の着衣」とされたズボンを製造した名古屋市のアパレル会社役員の男性(81)が、朝日新聞の取材に応じた。静岡県警の捜査員がズボンの捜査のためにやってきたのは事件翌年の1967年秋。だが、捜査員に話した事実は知らないうちに、まったく別の内容にすり替わっていたという。

男性によると、県警捜査員が、ズボンの製品番号からたどって会社を訪ねてきたのは67年9月。事件後、強盗殺人容疑で逮捕された元ボクサーの袴田巌さん(81)の裁判は既に始まっていた。「事件のことはもちろん知っていたので、驚きました」

製造過程や販売先などについて詳しく話を聴かれたという。ズボンのタグにある「B」の文字についても男性は「生地を便宜上ABCの三色に色分けし、これは『B色』を意味します」と色の記号であることをはっきり説明した。
ズボンは、事件から1年2カ月後、袴田さんが勤務していたみそ工場のタンク内から見つかったとされる「5点の衣類」の一つだ。検察側は裁判中に犯行時の着衣を当初の「血のついたパジャマ」から、5点の衣類に変更。これが証拠として認定され、袴田さんは死刑判決を受けた。

朝日新聞朝刊

東京高裁で行われたズボンの装着実験

裁判で焦点の一つになったのが、ズボンのサイズだった。弁護側は袴田さんには小さすぎるとし、ズボンは袴田さんのものではないと主張。控訴審では装着実験も行われたが、袴田さんは太もも付近までしかはくことができなかった。
一方、検察側はもともとは大きかったズボンが、みそに漬かって縮んだと主張。それを支えたのがズボンのタグにある「B」の文字だ。Bは長年にわたり既製服の肥満体用のサイズを示す「B体」のことだと理解され、裁判所は判決でもそれを認めていた。

「B」の本当の意味――。それに弁護団が気づいたのは男性の証言から43年後の2010年9月。第2次再審請求で、検察側が初めて開示した証拠の中から、「Bは色」と話す男性の供述調書がみつかった。弁護団事務局長の小川秀世弁護士は「検察側はそれまであたかもBがサイズの表示であるかのように事実をすり替え、尋問などで裁判官を誤認させていた」「しかも都合の悪い証拠を長年隠し続けた」と憤る。
弁護団から連絡を受け、男性も初めて、自らの証言が誤った内容で裁判に使われていたことを知ったという。「まさか、と思った。そもそも私たちが『B色』と『B体』を間違えるなんてありえない。そんなことでは商売になりません」

14年3月、静岡地裁は5点の衣類について、発見された状況が「不自然だ」とし、捜査機関による証拠捏造(ねつぞう)の可能性を指摘した上で袴田さんの再審開始を決定。袴田さんは48年ぶりに釈放された。一方、検察側はいまも、ズボンは袴田さんのものであるとの主張は崩していない。
「B」の意味はいつ、誰によってすり替えられたのか。男性はいう。「あのときの刑事さんはまじめに私の話を聞いて、ありのままを調書に記しただけだと思うんです。誰か上の方の頭のいい人が(すり替えを)考えたのか」

事件の発生から30日で51年。当時を詳しく知る人は年々少なくなっている。再審決定は出たものの、検察側が即時抗告したため、東京高裁での審理は長期化。弁護団は29日の協議で、ただちに即時抗告を棄却し、すみやかに再審を始めるよう高裁に求めた。(高橋淳)

弁護団、鈴木鑑定への意見書提出(29日の即時抗告審で、「地裁決定揺るがず」)

鈴木鑑定人の検証実験に関する意見書記者会見静岡地裁の再審決定についての即時抗告審で、6月29日東京高裁、検察、弁護団による三者協議が開かれました。再審開始の要因となった弁護側の本田DNA鑑定を検証した鈴木鑑定人の最終報告書(6月6日提出)について、弁護団は「地裁の再審決定の内容は揺るがない」との報告書を高裁に提出しました。三者協議の後の弁護団記者会見で発表しました。
その「鈴木鑑定人の検証実験に関する意見書」の全文を公開します。

鈴木鑑定人の検証実験に関する意見書

2017(平成29)年6月28日

東京高等裁判所第8刑事部御中
主任弁護人西嶋勝彦

鈴木鑑定人の検証実験についての弁護人の意見をあらためて述べる。

本件検証実験は、静岡地裁決定が「ただし、この方法は、血液細胞の比重の重さと凝集反応を利用するものであるから、試料が古くて血球細胞に損壊または状態変化が起きている場合に同様の効果が期待できるか必ずしも明らかではない。」と説示したことを捉え、「同様の効果が期待できるか」確かめるために行われた。

鈴木中間報告の要点は、市販のレクチンにDNA分解酵素が入っているらしい、しかもこれはDNAを消失されてしまうものらしい、というものであった。この主張が正しいのであれば、アイディンティファイラーでDNAが検出されることはない。

ならば本田鑑定の結果はなぜ出たのか?ハリエニシダのDNAか?アイディンティファイラーでは、ヒトのDNAしか検出されないから間違いなくヒトのDNAである。そして、そのDNAは袴田さんと異なるヒトの染色体DNAだった。これはどういうことか?

鈴木最終報告がそれを明らかにした。すなわち「レクチンを使用しても陳旧血痕からDNA型が検出される」ということである。(因みに、青木実験でもDNAは検出されている)。結局、半袖シャツに付いていた血液は「袴田さんのものではない別人」の血液だったという静岡地裁の認定は揺るがない。
したがって、弁護団は、不必要な尋問等を経ることなく、直ちに審理を終結させて検察官の即時抗告を棄却するよう本書面をもってあらためて求める。以下、その理由を敷衍する。

①本田鑑定においては(細胞)選択的抽出法は血液細胞を凝集する目的で用いられた。血痕から浮遊させた血液細胞とレクチンと混ぜるというものであり、レクチンは細胞膜に作用するだけでDNAに直接作用しない。本田鑑定の方法では、レクチンとDNAを、細胞膜、細胞質、核膜、核蛋白などによって相互に物理的に隔絶している状態で作用させているから、両者が混合されることはない。これはレクチン使用の目的があくまでも細胞凝集であって、DNAそのものへの作用を期待したものではないことからも自明である。

②鈴木実験が本田鑑定の検証であるとすれば、本田鑑定の手法を忠実に行うことが最低限必要であり、それ以外のことを行う意味がないし、無関係な議論を行うことになり有害である。しかし、鈴木実験は、本田鑑定の手法を再現しようとしておらず、独自の研究を実施している。ゆえに検証実験とはいえない。

③鈴木実験は、鑑定嘱託事項を無視した実験を行い、かつ中間報告と最終報告の内容は相反している。
中間報告では、レクチンを混ぜるとDNAが「消失」する→ゆえにレクチンがDNAを壊している、という理論を述べながら、最終報告では、レクチンがDNAを壊している→ゆえにピークが下がっている、と結論付けており、原因と結果を入れ替えた議論をしている。さらに、中間報告によれば「消失」するはずのDNAが最終報告では減少したとされており、結論まで変えている。
結局、「レクチンを使う必要はない。使うべきではない。」という信念の下、それを証明するために実験を行っているようであるが、そのような実験は裁判所に求められたものではないし、その解釈に科学的根拠(実証)もない。
もっとも、鈴木実験は、図らずも本田鑑定を裏付けることとなった。

④何度も繰り返している通り、本田鑑定人が(細胞)選択的抽出法を用いたのは、原審裁判所が「仮にDNAがでたとしても、血液に由来するものか誰かが触ったものに由来するものかがわからないと鑑定の意義が著しく低下する」と述べて、検出されたDNAが血液に由来するものかを識別することが技術的に可能かどうかに関心をもっており(平成23年5月13日打ち合わせメモ(第8回)の高橋裁判官の発言)、鑑定においても「上記各DNAが上記各血液に由来する可能性」が鑑定事項となっていたからである(平成23年8月29日鑑定人尋問調書別紙鑑定事項3)。
本田鑑定人の意見を受けた弁護人らは、当初から、血痕からDNAを採る以上、DNAは血痕のDNAであるという強い意見を述べていた。(平成23年6月22日付弁護人意見書)のであるが、上記のような経緯で本田鑑定人は、裁判所の鑑定事項に忠実に鑑定すべく、血液細胞を凝縮させるためにレクチンを利用したのである。これこそが、血液細胞だけを選別する意義であり、「(細胞)選択的抽出法」という名称の由来である。

⑤以上の経緯を経て捨象して、鈴木鑑定の結果によるとしても、それが示すことは、陳旧血痕を含めて(細胞)選択的抽出法を用いてもDNA型が検出されたという、動かし難い事実である(型が検出されていない(RFU50に達しない)のは1ケースのみであるが、これは単に失敗した実験である可能性が高い)。鈴木鑑定人はDNA量が減少したと言っているが、レクチンにより細胞選択をかけているのであるから、この方法でDNA量が減るのはむしろこの方法の選択性が有効であることの証明である。

⑥付言すれば、本田鑑定人は、本鑑定においてアリール・コールを検査機器(3130XL)で使用されていたソフトウェアの初期設定どおりRFU50としている。バックグラウンドの高さの上限を考慮して閾値をRFU50にすることは国際的にも標準として用いられている(平成24年6月22日付求釈明事項に対する回答書)。それを考慮すると鈴木鑑定人は本田鑑定人と同じ条件で検出すべきであるし、そうしなければ検証にはならないはずである。これをその根拠を明確にすることなく、勝手に150RFUに設定することは、検出されているピークにアリール・コールさせないようにして、型検出をあえて難しくしていることを意味する。
本田鑑定人と同じ基準の型検出を確認するために、鈴木鑑定人には、全ての実験における陽性コントロールと陰性コントロールの結果、並びにアリール・コールの閾値を50に設定して再解析したチャートの提出を求める。

以上

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